2025年7月10日木曜日13時公演をB席で見た。S席は高いし、B席で全然いい~と申し込んで当たった。なんと、B席は2階最後列1列のみのレア席だった。会場は、東京建物 Brillia HALL 箕面。悪評高い劇場の名前の割にゆったり格子状の配置で、ストレス少なめ。2階最後列でも見やすかった。
とにかく見れてラッキー。とてもいい舞台だった。
原作もドラマも予習せずに、ミュージカルを見てきた感想です。
ミュージカル梨泰院クラス、復讐やビジネスを描く疾走感のある3時間弱に、しっかりみっちりセロイとイソのラブストーリーや、クルバムやチャンガに関わる人間の生きざまが緻密に描きこまれてた。みんな、ままならなくて、一生懸命生きてた。梨泰院クラス、人生に想いを馳せてしまういいミュージカルだった。
特に和希そらさんは、どの歌もどんなセリフもつぶだっていて群を抜いてた。イソのいびつでカワイイところがよくわかった。
主演の小瀧望さんは、甘い顔だちと上背のある華やかさに加えて、ほうっておけない感じのあったかみがセロイ役によく合ってた。
和希そら、上手
和希そらが出てるから、チケットを取った。
いや~和希そらは、本当に上手い!
音響に勝つ、歌のうまさ、口跡のよさ
いちばん後ろのB席だからだろうか。音響が抜群とは言い難かった。皆さん歌がうまい。なのに、一部歌詞が聞き取りにくいナンバーやフレーズがあった。RENTやキンキーブーツのような、ギター・ベース・ドラム!って感じの楽曲の多いミュージカルは大抵初見で歌詞が聞き取りにくい気もする。そういう悪条件の可能性をぶっちぎって──。和希そらの、歌は、聞こえて、うまい。
歌いだしが、低音なのか、ラップ調なのか、しゃべるように歌いだすナンバーが全体を通して多かった。イソ和希そらの歌いだしは、ささやいてるのに、歌。歌うようにささやく。さえずるように、ささやく。鈴が鳴る様に歌う。イソの想いが歌の中に、しっかり聞こえる。
セリフも、活舌が良い。早口で、大人を舐めるような未成年時代のイソも、聞こえる。セロイへ届かない恋心をにじませるセリフも、聞こえて、心に響く。かわいい。
口跡が良いとは、和希そらのようなことを言うのね。
元男役スターを感じるスタイルの良さ
ボリュームのあるトップスに、ぴたっとしたパンツや、ミニスカート合わせるスタインリング。
和希そら、あしがながい。小柄なイソって女の子でありながら、お顔が小さいからスラっとしててすごい。二次元感。
元男役スターの手に、セロイとイソの人類愛
二幕の終盤、つきあうようになっても、手つながないよねって話で。
セロイとイソが、よろしくって、握手するように手を出しあって手をつなぐ。
和希そら、手が男役向けだ~!って感動した。身長の割に大きくて骨ばってる。
役者和希そらは、今さら男役ポイントを強調してはないと思う。けれど、私は、まだ夢みている。不思議だ、退団した男役。
小瀧さんが、身長高くて男らしいから、絶対的にイソはかわいい女の子だ。「それにかなり年下だし」ってセロイはイソの想いを退けたりする。和希そらのお芝居も、年下の生意気さと可愛さを感じる。
あえて、夢見たままの和希そらの「手」がよかったのよ。
和希そらの手に感じる一種のジェンダーレスさに私はぐっときた。
セロイの右腕として有能オブ有能で、性愛の対象とは全く思われてなかったのを象徴してるんじゃないかな。
セロイとイソが恋人として向き合うシーンで、和希そらの「手」が、性愛でなくて人類愛を感じさせてた。
宝塚のキス芸でなく実際にキスしちゃう、外部のキスシーン。セロイとイソのキスシーンもあったが、生々しい感じはしなかった。人間の愛。
和希そらの差し出された手で握手して手つないだ後に、梨泰院の坂を表した階段を下ってきて、舞台中央でキスシーンだった。イソとセロイは、いっそ、諸葛孔明と劉備のBLですって感じの人類愛を感じる。(後で詳しく述べることとする)
saraさんのイソを見てないので、なんともいえないが、男女の愛っていうより、人間の愛って感じがした。和希そらの演じるイソと、セロイの間にあるものは。
小瀧望氏:求心力役者、実はアイドル
彼は、アイドルなのね。会場で、青いチケット封筒を散見した。ぬい撮りをするオタクも散見。
私、昨年、Death Takes A Holidayも見た。サーキ王子も、死神なのになんか憎めない真ん中力で、小瀧望氏……なんか気になると思ってた。
セロイ、とてもよかった。
中~高音の上手さと、低音のマジメさがセロイ
小瀧氏の歌声は、中音~高音の歌声がのびやかに感じた。
低音部分は、うまいのか?これは?って考えてしまう独特の魅力があった。
このミュージカル、歌いだしの、ささやきのようなしゃべりのようなラップのような部分が聞こえにくい、難しそうな楽曲が多いのよ!
小瀧さんは、その低音がちの歌いだしの真面目に歌ってる感じがめっちゃよかった。
セロイのまっすぐな人柄が滲んでてたり。チャンガへの怒りが込められてたり。現状をかえたいって志が熱い秘めたエネルギーになってたり。
うまいのか?これは?……がんばれ小瀧氏って若干ハラハラする歌い出しの部分が、セロイの、求心力になってた。小瀧氏をセロイで真ん中に置きたいって考えた人、すごいよ!わかるよ!とてもよかった。
ほうってっておけない魅力
甘い顔だちと上背のある華やかさに加えて、ほうっておけない感じのあったかみがある方だな…と思った。サーキ王子とセロイの共通点。死神、独特のヘアスタイルの前科者……しかし守ってあげたくなるというか。とにかく、ほうっておいてはダメだと感じるのね。小瀧氏演じるサーキ王子に対し、ヒロインはあの世までついてく。小瀧氏演じるセロイに対し、ヒロインはビジネスマネジメントし始める。
セロイを慕うクルバムのメンバーはもちろん、高校のときの初恋のスアも、チャンガの父息子も皆セロイを色んな意味でほうっておけない話だった。そのセロイとして、小瀧氏の説得力がすげー。
彼が次に、きっと真ん中で演じるミュージカルがどんなお役なんだろう。気になる。
ブロードウェイミュージカル:ままならない人生
パンフレットに、ミュージカル文筆家町田麻子さんが寄せている文章によると──梨泰院クラスは、物語構造と制作過程が、ブロードウェイミュージカルだそうだ。
アウトサイダー的な主人公が、自分らしく生きようともがく中で仲間や理解者と出会い、共に成長していくというのはブロードウェイ作品の“王道”構造。
ミュージカル梨泰院クラスパンフレット
そしてそんな物語を歌と踊りで描くにあたり、知名度や話題性があることではなく、作品の背景やテーマに合った音楽や振付が作れることを基準にクリエイターを配するというのも、ブロードウェイでは当たり前に行われている
そうだったんかと膝を打った。2800円のパンフレットを買って、勉強になった。RENTやウィキッド、キンキーブーツ等を例に挙げての解説が書かれてた。見たことあるミュージカルが増えてきて、整理できて嬉しかった。
話は、梨泰院クラスに戻る。
本当に、登場人物皆ままならなくて、愛しい。敵役のチャンガ父息子含め、自分らしく生きようともがくやつらだらけ。それが人生、それが人間……梨泰院クラスから私は人生、人間ままならないから愛しいと感じた。
あなたの諸葛孔明になりたい:イソ、ままならない
特に、イソの「あなたの諸葛孔明になりたい」って歌詞にぐっときた。
おそらく、1幕最後のほうの、クルバムのプロデュースをイソがするでって歌の中にあった。「ターニングポイント」って歌だと思う。
がやがや、セロイ、グンス、ヒョニ、スングォンがクルバムで、クルバムやったるでって歌の時よ。
どさまぎで、イソが歌った!
「あなたの諸葛孔明になりたい」
めっちゃ、おもろいやん。
まず、イソは、序盤、「愛とは」って歌で、愛とか意味不明と歌ってるんですわ。自分のことを好きなグンスを弄んでバイクでソウルまでタンデムよ。悪い娘よ~。で、バイクで事故ってイソは着ぐるみセロイの胸に飛び込んで恋に落ちる。
そんで、後から伏線になる、ファーストキスをうたた寝するセロイにかました後の!
どさまぎの!「あなたの諸葛孔明になりたい」という大告白。
あくまで、どさくさに紛れて、大告白しているのよ。がやがやと歌いつぐナンバーで、どさまぎに耳に印象的に入ってくるフレーズを軽くキャッチーに歌う和希そら、すごいよ、彼女。そしておもしろく、興味深い。
イソが、「愛とは」で、意味不明だと切った愛。世の中で一番ナンセンスだって歌ってた愛。
その愛の実践が、好きな人の事業(志)を成功させるって。
人の役にたちたい、人間としての実践だわ……
天才で、マネージメント絶対できる自信と、愛が合わさって諸葛孔明になりたいなの。
人間として、自分の能力を発揮したい、役に立ちたい、他人の役に立ちたい、好きな人の役に立ちたい。それは愛。
こういう哲学なかったですか、エーリッヒフロムか誰か書いてなかったですか、愛について。
「あなたの諸葛孔明になりたい」は、原作やドラマにあるセリフなのだろうか。有識者の方、教えていただきたいっす。すごいね。劉備がセロイで、チャンガが魏ってイメージして、物語の対局をつかめる点もすごい。それを観客の耳に逃さず聞かせる和希そら、なんて有能。
すぐ殴るセロイ、すぐ録音バラすイソ:人間変わらない
セロイは、物語後半、チャン息子に関して、すぐ殴る。
イソは、物語前半の人を舐めてる録音SNSにばらまくぞ脅しを、物語後半でもやる。
このあたりが、人間ってそうそう変わらないよねって思えてよかった。セロイとイソが、事業成功させてもうすぐ、チャンガの株式1%とるでってタイミングでも、それかって行動するの。なんかいい。かわんないとこが、私ら彼らのいいところでもあるし、同時に人生を何度もピンチに陥れる。
うん。人生ってそういうもんだわ……しみじみと感じた。
チャン家:顔がいいクズ揃い
チャン・兄。顔がいい。悪役の出来る濃い男前……。JOJOミュで見た宮野守DIOを彷彿させるものすごい、濃ゆさがあった。生まれの宿命と、よくない人間の素質と、どうしようもなさと暴力性とが渦巻いた男の美みたいなものが舞台上にキラリとしてた。生まれの良いチンピラ感が何者。秋沢健太朗さん。
チャン・弟。顔がイイ。マジでK-POPの人みたいな綺麗なお顔と華奢さ。イソにふりまわされ、セロイを兄貴と慕い、チャン兄チャン父に屈折した思い抱き、セロイを裏切る。格闘にはスプレー缶で立ち向かい、かっこよくセロイとイソのもとを去る。おいしい役柄だ。
チャン・父。チャン兄弟をそれぞれ違う女性に産ませたクズパパ。
セロイ父が、セロイの頭ぽんぽんするシーンが印象的だが、チャン父はそんなの絶対しなさそう。
メロディが印象的な初恋、初恋リプライズ
わたしのこと好き?♪って、メロディが耳に残ってる。オ・スア梅澤美波さん。怜悧な美貌
中の下程度にまずしい家庭の出感が絶妙だった。学費のためにセロイを売った女が、セロイの近くにずっといる。イソにいじわるしたり腹立つ~。
ただしセロイを売ったから、初恋は成就しないというよりも、セロイとオ・スアは、いくら近くにいても、ずっと近くにいても、淡い初恋以上の恋愛関係はならないってなぜか説得力があった。
わたしのこと好き♪って、甘い感じの歌い出しが、リプライズされると、恋にはならない、男女ってどうしてもいるものねって感じた……。
セロイとイソ、劉備と諸葛孔明は人類愛するのと対比。
変わらないスングォン、かわるヒョニ
ヒョニのトランスジェンダーへの偏見エピソードは、胸が痛すぎて泣いた。本当につらい。つらいとこに、セロイのまっすぐな人柄なセリフと、イソの詩の歌が効く。
スングォンは、吉田広大さん。4月に見たボニクラで、テッドを演じてらした方だ!と声聞いてすぐわかった。ざらつきのある低音が、よく響いて、刑務所のシーンの歌とパフォーマンスがとても良かった。
夢という歌。セロイが、飲食業で成功したいと本読んでるとこに、スングォンは前科者が勉強とか意味ないって絡んでくんだが、セロイは怒らず、やってみないとわからないって歌う。鉄パイプをつないだジャングルジムみたいなセットを使ったダンスが印象的だった。ここもう1回見せてほしいダンスパフォーマンス。ミュージカルのムショ、楽しいわ。
まとめ:めちゃいい
とてもいいミュージカルだった。原作の物語に力がある。引用したようにブロードウェイミュージカルの手法で制作されているようだ。再演は当然するのだろうという会心の出来。再演も見たい!
初演の小瀧氏と和希そらの魅力ある組み合わせで見れてとてもラッキーだった。
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