ホリプロボニクラ感想:シンプルにクライドがカワイイ。柿澤勇人の芝居がプロ。雪組さきあやの魅力を何度も味わう。

ボニー&クライド森ノ宮ピロティホールに貼られていたポスター 観劇記録

2025年4月29日、森ノ宮ピロティホールにてミュージカル 「Bonnie&Clyde」(ホリプロ制作)を見た。マチネだけのつもりだったが、急遽帰りの便を変更。リピーターチケットでソワレも鑑賞した。
マチネ:柿澤勇人・桜井玲香/ソワレ:矢崎広・海乃美月

この感想記事は、以下の人に向いてると思います。

  1. 雪組のボニクラを好きな人:さきあやのボニクラの魅力が改めてわかったよ。
  2. 柿澤勇人さんのファン:あなたの推しは素晴らしい。
結論:ホリプロボニクラは、セリフや歌詞、演出がシンプルでわかりやすかった。クライドの魅力を改めて実感した。特に柿澤勇人さんのお芝居が秀逸だった。
ホリプロボニクラを経験して、雪組ボニクラの演出やさきあやの魅力を改めて感じることが出来た。

お忙しい、あなた!
目次から、柿澤さんのインタビュー引用へ飛んで、そこだけ読んでください。柿澤さんのお言葉通りの舞台だった。

前説:雪組ボニクラで、撃ち抜かれたよ

さきあや大好き

2023年2月、名古屋・御園座での宝塚歌劇団雪組「Bonnie&Clyde」で撃ち抜かれた。さきあやに。彩風咲奈さんと夢白あやさんのトップコンビ芸を、私は大好きになった。数々のさきあや主演作はあれど、心の中ぶっちぎりに輝くのはボニクラだ。

クライドに共感してしまう

公演から2年以上経った今も、インターネットの海へボニクラの感想を漁りに行く。
「犯罪者には共感できないけど」って前置きを散見する。前置きした上で、いいところを述べている。好意的な記事だ。共感の有無は、舞台の良し悪しとは関係ない。しかしむずむずする。
わたしは共感してるのだ。
アウトローって線引きで、自分とクライドを分かつ必要あるかな?
クライドの気持ちって普遍的に思う。ままならない人生の楽しさと悲しみを、クライドは歌ってくれる。強盗、殺人、愛、銃撃戦。クライドは人生謳歌してる。
労働、観劇、老後のための貯蓄、推し活。私も人生を謳歌してる。

今回のボニクラは、宝塚のキラキラは無い。
なのに、可愛かった。
だから、わかった。シンプルにチャーミング。
わかりやすいセリフや演出で、クライド・バロウの魅力が明瞭に輝いてた。

反芻しすぎて客観性に乏しい

雪組のボニクラ……好きが過ぎて、無数の反芻をした。脳内の雪組ボニクラは一体どの公演なのか。観た公演なのか、ブルーレイの映像なのか、自分の妄想なのか、もはや判別がつかない。
今回のボニクラも……2週間、ひとりで脳内上演した状態。
つまり、客観性には乏しいことを書き添えておく。

シンプルにクライドがカワイイ

クライドがカワイイ①ジョプリンのアパート

ホリプロクライド:シンプルモノローグとスローモーション

とうとう警官がパロウギャングに迫り、銃撃戦が始まる。

ボニーやバック、警官はストップモーション。クライドだけがスローモーション。
身をそらし、銃弾をよけ、部屋じゅうの家具を盾にする。身を翻しながら警官を狙う。
クライドは、独白する。

「なんで俺たちのことをめちゃくちゃにするんだ」

なんてこった。めちゃくちゃにかわいい。

民衆にもちあげられ、ちょっとしたスター気分でさえいたクライド。でもアウトローなやり方では死がすぐそこに迫る。
自分がいちばん不幸で、みじめだって率直にモノローグする。
共感する。仕事でミスしたただけで、あたしって世界一不幸だわ……と思っちゃうよ。
仕事で下手こくどころでない。銃撃戦で、恋人と弟と自分と、みんな死ぬ!ってなるんだよ。そう言うわ。わかる。

男性の役者の肉体が、そこに在る。スローモーションで、銃撃の瞬間を100%、クライドの身体を使ってるのがわかる。なんで俺ばかり酷い目に合うんだって、幼い心情を吐露するモノローグは時をひきのばす。
ボニクラは、タイトなリズムでテンポ良くすすむミュージカル。クライドの生き急ぐような人生を表した作品全体と、彼の気持ちがずれているこのシーン。好きだ。
スローモーションとわかりやすいセリフで、取り残されるようなクライドの寂しさが見えた。

雪組クライド:歩く男役芸

一方雪組版。彩風クライドが、夢翔みわさん演じる少年クライドに語りかける。
「どうして神様はこんな手間のかかることをするんだ……わけがわからないな」
彩風クライドは、アパート内をゆったり歩く。歩く。歩くっていうのは男役芸なんすよ、私は彩風さんで知った。歩く男役芸で、クライドのさびしさを表現する。こっちも好き。

ジョプリンアパートでの銃撃:昼か夜か。

雪組版はこのシーンは夜かなと思ってた。

昼かも:悲惨な銃撃戦が始まる

ホリプロ・ジョプリンのアパート、昼だと思った。
アパートの窓の外に位置する舞台奥が、明るいの……。
静かで、晴れてた。
煙草をクライドが喫んでる。客席まで煙が漂ってくる。
ラジオから流れるHow’Bout a Dance? 
わたしたちの曲!と盛り上がり、写真を撮る。

タランティーノみを感じた。日常の謎会話して、音楽流れて、結果派手に銃撃殺戮ってイメージだ。
ボニクラはタイトなリズムを刻み、フロウを感じるミュージカル。タランティーノ映画の長尺とはテンポが違う。
でも、昼間の晴れた、猫があくびしてそうな日常が、あのシーンにはあった。

逃亡生活の日常:ボニーの髪

日常といっても、あくまで逃亡生活だ。
ボニーが髪の毛を染め直したエピソードがあった。茶→赤だ。
言葉にせず、長い逃亡生活を表してる。演出の緩急がすごい。
雪組では、夢白さんはずっと金髪。超似合う。「写真を撮られたらイヤだ。美容院にいけてない」ってクライドにぼやいてる。愛しい。

ジョプリンアパートでの銃撃演出が美しく、クライド際立つ

穏やかにさえ見えるクライドたちの日常。昼間の煙草とHow’Bout a Dance?でゆったりとさえ感じる。一気に銃撃戦が始まる。銃を撃つスローモーションでのド・ストレートな独白。クライドの身体と気持ちが舞台いっぱいに広がる。 
ホリプロボニクラで、美しいな……クライドかわいいな……と強く私が思ったのは、ジョプリンのアパート、銃撃前~銃撃中だ。

クライドがカワイイ②マサチューセッツに「シゴト」がある

♪You Can Do Better Than Himの歌いだしのラブストーリーが大好きだ。
彩風ボニー「元気かい?」
夢白ボニー「元気だったと思う?」
ボニーがムショまで会いにくる。

彩風クライドが「マサチューセッツのウースターに、建設現場の仕事がある」っていう。
いやいや、あんた働くんか?って私は思う。
夢白ボニーは、「再出発するのよ」って励ます。恋やん、って私は思う。
「ああ」彩風クライドはかっこよく返事する!いやいやいや、あんた働くんか?私は思う。けど、彩風さんのかっこいいかっこつけで押し切られる。

ホリプロクライドは「マサチューセッツにも、強盗できるところはあるだろ」って言ってた。
正直か。くそカワイイ。きゅんきゅんする。

クライドが「シゴト」をするわけないwwって透けて見えるところ。男役彩風さんのクライドでかっこよくかっこつけて見せて、ふたりが恋に燃えてることを表す。雪組版、めろめろに好きだ。

シンプルに、まっとうな仕事はしない、強盗をする男だって描いてるホリプロ版。わかりやすい。好きだ。

クライドがカワイイ③「Bonnie」の歌詞

雪組の「Bonnie」は結構直訳だ。ゆったりとしたリズムに、日本語が詰め込み気味にのっている。キス芸の間が長いのも最高だ。紫のツヤツヤスーツで歌う彩風さんがめちゃイイ。

ホリプロ版「Bonnie」は、かなりRomantic解釈だった。
「人生でやっと出会えた幸せ」ってボニーのことを、ストレートに歌ってた。

第1幕ブランチのアパートで、刑務所に戻ってまっとうに生きるとバックが言う。対して、クライドは、激怒して、ボニーをも殴る。クライドは、生まれたきから酷い状況が変わらない、変える方法がわかんないってことを言いたかったんだよね。そこからの、「人生でやっと出会えた幸せ」ってBonnieを歌う。ホリプロボニクラの脚本や歌詞は、流れがわかりやすい。

演出の違いで感じる、柿澤さんと彩風さんのそれぞれの良さ

撃たれたクライドの手当

強盗に入った銀行に金がない。挙句銀行員に撃たれたクライド。クライドをボニーが治療する。ふたりがふたりでしかいられないことを実感する大事なシーンだ。

ホリプロ:在るだけのお芝居で、わかる

柿澤さんが半裸で包帯巻かれる。男性の肉体って迫力ある。
桜井ボニーが包帯まくの下手だとか、最中の会話にアドリブも交えてた。コミカルでさえある。
傷ついたクライドの大きな身体を、ボニーが手当てする。確かさがあった。背中に手を回すのが一仕事だ。一仕事終えたボニーが消毒用の酒をあおってた。

手当てのあと、クライドがボニーの詩を聞く。
ボニー&クライドか、クライド&ボニーか、言い争うが、クライドは詩をさえぎらずにじっとしてる。
血にじむ包帯巻いて真に迫る肉体をもったクライドが、じっと椅子に座りボニーの詩を聞く。在るだけでお芝居する。役者さんってすごい。

雪組:さきあやの宝塚芸が最高な演出

カーテンに映った彩風さんの脚ながっって影絵で、手当を済ませちゃう。済ませちゃうのだが、影絵の彩風さんの座り方がすごいの。あしながい男役しかできん。夢白さんの「うわっ、グロッ」ってセリフもボニーすぎる。そして、カーテンから、寸分たがわず脚長い彩風クライドが出てくるのよ。

ここぞと!How’Bout a Dance Repriseを、クライドが歌う。
「悩ましい曲さえも霞むほど輝こう」夢白さんが彩風さんの膝に乗ってハグすんだ……相手役見上げお見つめ芸がスゴイ彩風さん……夢白さんの華奢体躯が彩風さんにすっぽり…マジで「言葉はいらないね」
歌とさきあやの見つめ合い芸、あげあげの精※で、「ふたりはふたりでしかいられないこと」をこれでもかと宝塚的に表現してる。すごい。
※下級生のダンスで、テンションあがったクライドを演出する手法(スカイステージのナウオンって番組をご参照ください)

Raise a Little Hell:バール彩風のケツ痛そうさと、スパナ柿澤の殺意

まず、最初にケツの痛そうさは、彩風さんがぶっちぎっている。あんなケツ痛そうに歌うタカラジェンヌ、いや、役者は、他にいるのだろうか。

凶器の違い

使用凶器の違いがある。
彩風クライドが、なぜそこにあるん??ってデカいバール。

ホリプロクライドはスパナを靴下に隠してる。男性ならではの演出でシンプルに唸った。

三島由紀夫の「獣の戯れ」という小説に、道に落ちてるスパナを見て、殺そう…と思い立つ──そんな描写がある。若い男の生臭さや暴力性の象徴、スパナ。クライドのスパナを見て、思い浮かんだ。

演劇として、男性の肉体がそこにある。スパナを手に持つ。迫力だ。

彩風さんのバールも、「そこに在る」ってことが殺意として機能するのが演劇のおもしろさだ。ホリプロのスパナで味わえなおせた。

ホリプロ版クライド:具体的に、死にたい

このシーンのホリプロクライド、「看守に頼んで殺せというか?」と歌う。
クライドはもう死にたいと思ってる。具体的に、死ぬ方法を歌うの。
対して雪組脚本では、「いっそ死ねたなら、楽になれるか」ふわっとした歌詞だ。でも、彩風さんのブッチギリのケツの痛そうさでクライドの気持ちがより伝わる。
歌詞として単純に比較すると、ホリプロの看守に頼んで殺してもらうを想像してるクライドのほうがわかりやすい。
ホリプロ脚本の一貫したわかりやすさがすごい。具体的に歌って、死にたいと考えてることを言葉でも観客に伝える。

柿澤クライドの殺意が見えた

で、歌ってるうちに、殺意になる。
柿澤クライドの殺意に切り替わる顔が見えた気がする。すごかった。
わたしも、結構怒りを原動力に行動してしまう。いい行動でも悪い行動でも、怒りってエネルギー源だ。ただ、怒りと殺意の間には何か溝があるんだろうと思ってた。
溝ってあるのかな?レイプされたら殺そうってなるよな。柿澤さんの怒り→殺意の表情には説得力があった。怒り→殺意の間に溝はあるけど、人は超える。私は共感した。

柿澤クライドの見事さってここなんじゃないかな。わかるシンプルさで、観客をひきつける。
私はひきつけられた。

ボニーについて

桜井さんは絶対的に気が強そうなボニーで素敵だった。ボニーのセリフがよく馴染んでた。

ホリプロボニクラのボニーは、過度に女言葉でない。現代の女の子に近いしゃべり方をしていた。
1幕でのブランチのアパートで、刑務所に戻るって言うバックにクライドが取り乱す。「盗みじゃなくて仕事を見つけよう」っていうボニーをクライドは殴る。ボニーは、すぐクライドをひっぱたき返す。

夢白さんは「二度目はないわ」なの。
桜井さんの「二度とアタシを殴るな、Baby」ひゃーーー最高。

海乃さんは立ち姿の美しさがさすがトップ娘役。クライドが好きだから行動している論理を感じた。

夢白ボニーは、生まれながらに持ってるだろう狂気が絶品だ。アクセル踏み抜ける女でしょ。
ブランチに銃むけて、「わたしの犯す殺人の最初の犠牲者になる?」ってところとか……本当に夢白様。大好き。
狂気とハリウッド女優になれちゃう度が、夢白あやさんすごすぎる。

今回の4人のキャストの中で、狂気を感じたのは柿澤クライド様だった。
柿澤クライドと夢白ボニーの組み合わせは地獄度がダントツだろうな……怖いけど見たい。

公演プログラムの柿澤さんインタビュー:プロの仕事に感動(引用あり)

観劇後数日してから、電子版の公演プログラムを買った。
柿澤さんの言葉におどろいた。
以下の引用の通りのクライドを、舞台の上に、私は見た。
役者って、脚本や演出を明瞭に言語化出来きるのか。でもって、そのとおりに舞台上にお芝居をのせることが出来るのか。なんの齟齬もなく。それが役者なのか。はじめてだ。舞台上の芝居と役者の言葉の完璧な合致って起きるんだ。
柿澤勇人さん、プロフェッショナルな仕事をするお方だ。

クライドは本当にまっすぐな人物なんです。傷ついたり、悩んだりすることがあっても、常にその上をいく行動を選んで、前にしか進まない。ボニーと出会ったことでその速度は加速し、25歳でこの世を去る。人としては確実に何かが欠落しているかもしれないけど、だからこそチャーミングに感じられるところがあるのだと思っています。
(中略) 
彼には人をひきつける匂いがあるし、この台本ではそこがわかりやすく描かれている。ある意味、とてもシンプルだと思います。

ミュージカル『ボニー&クライド』公演プログラム13p

まとめ:クライドはかわいい、シンプルにわかったホリプロボニクラ

舞台は生演奏で、身を浸しているだけで体が動き出しそうだった。ボニクラは音楽だけでチケット代の値打ちがある。音楽だけでフランクありがとう~って幸せいっぱいになった。
そのうえで、クライドをシンプルにわかりやすく描く脚本と演出が私に最高のクライド体験をくれた。特に柿澤さんのお芝居が素晴らしかった。クライドの再解釈ができた。

クライドってやっぱりかわいい。共感してしまう。

大好きな雪組のボニクラが、生の舞台とクロスしていく。楽しい感覚だった。
大野先生演出の雪組ボニクラって宝塚歌劇としてすごく作りこまれていた。しみじみとわかった。

今後も、私はさきあやのボニクラを擦り続けるだろう。
次は、NHK-BSで放送されたウェストエンド版のボニクラを視聴し、さきあやボニクラを味わい直す。

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